すてきなスープ

君はなんだか偉そうになったね。今も好奇心をなくしていないといいんだが。

夏、深夜、妖怪

※この記事にはネタバレが含まれます

 

この仕事に就いてから、めっきり夜型になってしまった。土日に仕事が入ることも多いし、全然遊びに行けない。季節は私が大好きな夏なのに、この閉め切った会社にもどこからか入ってきた夏の風が漂っているというのに。今年は入道雲を見ただろうか。蝉の声は会社の中にいても聞こえてくるけど、入道雲は見ていない気がする。でも、この街にも夏は確実にあって、今日は運がいいことに白いワンピースを着た女の子も見た。友達と連れ立って青空の下を走るその子は、夏の化身みたいだった。

私はもう、あの女の子みたいな夏の日を過ごすことは出来ない。小学生、夏休み、入道雲と青空、扇風機の音、ソーメンとかき氷、友達の笑い声。私にはもう何も手に入らない。遠い過去に置いてきてしまった。私の目の前にあるのは四角い箱とアルファベットが書かれた板、乱雑にいれたミルクティーと、積み重なった資料。クーラーの効いたこの部屋は、真夏だというのに少し肌寒いくらいで。

あの日に帰りたいかと訊かれたら、私はどうするんだろう。もう戻れないからこそ、美しかったと思うのだろうか。誰もいなくなった会社でキーボードを叩く私の耳からは、もう解散してしまった大好きなバンドの歌が流れている。

 

誰かが僕を見て笑ってた 夏を嫌う理由が僕を笑ってた

ハヌマーン「Fuzz or Distortion」より

 

夏は大好きだったんだけどな。今の私は、本当に夏が好きなんだろうか。夏の幻想に囚われて、勘違いしちゃってるのかもしれない。大好きだけど大嫌い。だってもう、私の夏には何も起きない。絶望しそうになる。でも私の手は勝手に稼働する。もうすぐこの仕事が終わる。終わったら少し、息抜きをしよう。摩耗してきて、何もする気がなくなっちゃうよ。この歌みたいに。

 

次の日、私の元に以前注文していた物が届いた。少し前に雑誌で見かけて、気になっていたゲーム。小学五年生になって、妖怪たちと一緒に夏の日々を過ごすらしい。妖怪と友達になって、お願いされる依頼や住んでいる町で起こる不思議を解決する。夜の学校に忍び込んで妖怪と戦ったりね、ああ、昔観た映画『学校の怪談』みたいだな。でもそれだけじゃない、ゲームの本筋はもちろんあるけれど、釣りをしたり虫取りをしたり学校の友達と話したり、そんな夏の日を過ごすこともできるんだ。ああ、『ぼくのなつやすみ』みたいだな。昔を思い出す。でも、実際の小学生のときの夏休みには虫取りも釣りもしたことなかったな。

 

それから私は、仕事が終わるとそのゲームに没頭するようになった。毎晩、深夜27時頃。そのゲームのなかには私が欲しかった夏のすべてが入っていた。どこかに忘れて来てしまった夏休みがゲームのなかには確かにあって、ゲームのなかだけでは私は小学五年生だった。海や川に行って釣りをして、森に行って虫をとった。妖怪の友達がいっぱい出来て、たくさんの戦いを経験した。そして物語が終わりを迎えようとしたとき、私は泣いた。ずっと一緒に冒険してきた赤い猫の妖怪が、私に「バイバイにゃ」と言って消えていったから。待ってくれよと思った、私たちは友達じゃないか。友達っていうのは近くにいるものだろ。いなくならないでくれよ。20代中盤になって、本当はもう友達があんまりいなくなっちゃったんだ。もし今、昔のように夏休みをもらえたとしても、もう誰も私とは遊んでくれない。ゲームのなかにいたのが本当の私じゃないことは分かっている。本当は、小学生の男の子だ。性別すら違う。でも私にとって赤い猫の妖怪や白い執事は、この夏一緒に過ごしてくれた友達なんだ。大人になっても、もう二度と経験できないと思っていた「夏」に彼らが連れて行ってくれた。私はうれしかった。本当にうれしかったんだ。

その後、大号泣したにも関わらず赤い猫と白い執事は帰ってきた。私の涙を返せ。でも、それよりうれしかった。まだ、夏休みは終わらないんだ。

 

しばらくして、そのゲームのアニメがはじまった。そこにはゲームとは違う彼らがいた。違うけど、好きだった。極上マグロが好きなゲームの赤い猫も好きだったけど、アイドルに現を抜かしている赤い猫も好きだった。主人公の男の子、天野景太くんと赤い猫と白い執事のやりとりは、アニメならではの面白さがたくさん詰まっていた。アニメの世界で春夏秋冬を過ごす1人と妖怪2匹の日々は、ゲームとはまた違うけれど、とても楽しいものだった。ずっと彼らは一緒なんだと思っていた。一時期は国民的アニメみたいな立ち位置にもなったし、何だかんだあれど彼らの日々は永遠なのかと思っていた。

 

 

 

終わる前に、すこし気持ちを書きたかった。思い出と感謝がありすぎるんだ。この作品に出会わなければ、私は夏に焦がれて職場で息絶えていたかもしれない。いろんな意味で。冗談でした~で終わってほしいし、何だかんだシャドウサイドにも時を超えて出てくるんだろうとかも思っている。そもそもゲームでケータくんたちの話の続編が作られる可能性も残っている。公式発表は何もないし。

でも、もし違ったら?こんなエモい気持ちになれることは、人生のなかでそうはない。久しぶりに感情が赴くまま文章を書いたから読み返したら気持ち悪くなりそうだ。でも、本当に感謝しているし、あの作品は私にとっての「夏」そのものだった。一瞬で、今で、ノスタルジックで。『妖怪ウォッチ』に出会えて本当によかった。ジバニャンずっと大好きだよ。

 

 

 

妖怪ウォッチ - 3DS

妖怪ウォッチ - 3DS